「宅老所」の可能性

今回は一冊の本をご紹介したいと思います。

herohero

鹿子裕文『へろへろ – 雑誌『ヨレヨレ』と「宅老所よりあい」の人々』

福岡の老人介護施設「よりあい」

この本は、福岡にある「宅老所よりあい」のひとびとが、特別養護老人ホームを作るまでのドキュメントです。

著者である鹿子裕文はフリーの編集者で、特別養護老人ホームの建設——その渦中にありながらも、絶妙な距離感でそこで巻き起こる困難を観察しています。

具体的に、そこにあった困難とはなにか。
それは、数え切れないほど多くあり、読んでいただくほかありません……。これはいわば、「いままでなかったもの」を作ったひとびとの冒険譚でもあります。

宅老所

「宅老所」とは、簡単に述べれば自宅やアパートを改修し作られた、小規模な老人ホームのことです。

「よりあい」は、寺のお茶室で週一回おこなわれたデイサービスが起源です。そしてその一年後、住宅街の民家で「宅老所よりあい」ははじまりました。
ここから、特別養護老人ホームがつくられるまでの過程が、本書の主な流れですが、その過程はおどろくべきことの連続です。
ユーモアあふれる筆致で描かれますが、その困難はどれも、一読者として「こんなの、無理じゃないか……」となってしまうようなことばかりでした。
なにしろ、「宅老所よりあい」はその起源からわかる通り、資金も、大きなものを動かす権力も持っていないのです。

では、なぜそれは可能だったのか。

読み終えたとき「こうだったから」と一言で述べようとすれば、それは、「彼らができると思っていたからだ」と言うほかないでしょう。

軽妙かつ内部に入り込み過ぎない距離から描かれる現実はいつも厳しく、しかし、そこでは目標はいつも達成されてきた。
その中心にあったのは「人」というほかありません。その感動的実話に、今後の終活を考えるヒントが隠されているはずだと感じます。

そこにある「終活」の可能性

現在、「終活」と呼ばれるものは、ざっくばらんに述べれば産業との関係においての準備にまつわるものが大半です。
もちろん、それにまつわる産業界の発展も望まれることです。

ですが、『へろへろ – 雑誌『ヨレヨレ』と「宅老所よりあい」の人々』には、そうしたものとは別の根本的な「終活」の可能性が秘められているように感じられました。
そして、そのことは大変魅力的であり、より長い目で「終活」を見た時、もっとも大切なことがそこにはあるように思います。

ターミナルケア、遺言、葬儀の方法、墓選び……。それらに関して、どういった「サービス」を選んでいくか。
いまの「終活」はまだ、その範囲を超えられていないかもしれません。
もし、そのことに一抹の不安やひっかかりを覚えていらっしゃる方がいれば、この本を是非とも手に取っていただきたいと思います。