シリーズ – かぐや姫にまつわる死生観①

今年の4月5日に映画監督である高畑勲さんが亡くなりました。

『じゃりン子チエ』や『火垂るの墓』といった作品が特に知られるところでしょうか。
アプローチやトーンは異なりますが、どちらも人間の業や悲哀を虚飾なく描いた素晴らしい作品です。

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そんな高畑勲監督の遺作となったのが『かぐや姫の物語』。
何度かの延期を経て、2013年末に公開されました。

8年の歳月と50億円を超える製作費が投じられた、他に類を見ないこのアニメーション映画は、それに相応しい傑作となりました。

今回からシリーズで、高畑勲監督『かぐや姫の物語』を主軸に、その原作である『竹取物語』にまつわる「死生観」を考察してみたいと思います。

『竹取物語』

『竹取物語』は、むろん有名な物語ですが、『かぐや姫』という表題で、たとえば絵本などで初めて触れたひとが多いのではないでしょうか。
正確な成立年、作者ともに未詳の『竹取物語』は、平安時代初期に成立した日本最古の物語だと言われています。

ところで、筆者が絵本で触れた物語のあらすじは、以下のようなものでした。

翁が竹林で光り輝く一本の竹を見つけ、それを切ると中から赤子が現れる。
子のない老夫婦はこの赤子を育てる。
あっという間に成長した赤子は浮世離れした美しい女性となり、かぐや姫と名付けられる。
かぐや姫の美しさの評判は瞬く間に世に広まり、その噂にひかれた幾人かの時の権力者が求婚を迫る。
かぐや姫は結婚の条件として彼らに無理難題を押し付け、それを無下にしてしまう。
最後には時の帝(みかど)が彼女に興味を示す。
そんな折、月を眺め涙するかぐや姫を翁は見る。
涙の理由を問うと、間も無く月から迎えが来てしまい、あなたたちと別れなければならないのだとかぐや姫は告白する。
それを知った翁と帝は月からの使者を戦力でもって追い払おうとするものの、月から使者の不思議な力の前ではなすすべなく、かぐや姫は月へと帰って行ってしまう。

さて、グリム童話を原作とした絵本などにも言えることですが、本来複雑な背景を持つ物語を子供向けの絵本のために平易に描いた場合、どうしても無理が生じてしまい、いまひとつその正体が不明なままその物語を消費してしまうという弊害があります。

筆者自身も、上記に描いたあらすじの絵本——『かぐや姫』——で触れた内容がその全てだと思い、その本当の魅力を知ることなく大人になってしまいました。

『かぐや姫の物語』

しかし、2013年の末、劇場で見た高畑勲監督『かぐや姫の物語』は、そうしたことが思い違いだったことを筆者に教えると同時に、日本最古の物語が宿す深いメッセージ、あるいは特定の信仰におもねらない広く日本的な死生観などを、素晴らしい線描で魅せてくれました。

次回は、平安時代初期に成立した日本最古の物語とされる『竹取物語』が宿す、多様かつ複雑な「本来の」姿を、断片的にですが、ご紹介します。

→ シリーズ – かぐや姫にまつわる死生観②