異文化から学ぶ「終活」⑩ – ①

前々回、「おとぎ話の不可解」という記事において、「浦島太郎」の類話にケルト文化を背景とした「常若の国のオシーン」という話があると述べました。

「常若(とこわか)の国」とは、ケルト神話に登場する「ティル・ナ・ノーグ」のことで、いわば「妖精の国」であり、「浦島太郎」のおける竜宮城に相当します。

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さて、ここで「妖精」という言葉が登場しました。それは日本特有の死生観には登場しないものです。

今回の「異文化から学ぶ「終活」」では、「常若の国のオシーン」のあらすじをお話しするとともに、「妖精」という存在を有するケルト文化における「死生観」をご紹介いたします。

そもそもケルトとは?

みなさんは「ケルト」と聞いて何を連想するでしょうか。

「エンヤ」や「ケルティック・ウーマン」といったアイルランド出身の歌手は日本でも人気を博したため、ケルト音楽を真っ先に連想される方も多いのではないでしょうか。
あるいは、アクセサリーのモチーフなどによく使われる「ケルティック・ノット」という独特の組紐模様を思い浮かべる方もいらっしゃるかもしれません。

このように、その芸術的功績は認知されてはいるものの、その歴史や文化となるとあまり馴染みがないのが正直なところです。

それもそのはずで、ケルト人とはかつて——ヨーロッパ全土および東は現在のトルコにいたるまでの広大な土地——に散在し、かつ遊牧民的であり、さらには文字を用いて記録を残す文化を持たなかったため、その影響力の大きさとは裏腹に、現代においてもいまだ未知の部分が多いといわれる存在なのです。

未知の部分が多いものの、その影響は現代に深く残っています。

たとえば、パリやウイーン、ミラノ、ロンドンといったヨーロッパの主要都市の名はケルトの地名や部族名に由来していますし、はじめに述べた「妖精」という存在もまた、さまざまな芸術作品を通して東の果ての国に住むわれわれにも伝わっています。

ケルトの死生観

ケルトの信仰において注目すべきは自然物崇拝です。

ケルトの自然物崇拝は樹木や多くの動物におよび、昨今日本でも注目されつつある「樹木葬」(「樹木葬について」)などにも影響を与えていると考えられるでしょう。

さて、「妖精」とは自然物の精霊を意味します。
つまり、それはいわゆる「霊」です。

われわれの死生観でいえば「霊」には「死」の匂いが強く漂い、たとえばホラー映画などでは「霊」はおそろしく、また自身もそちら側——「死」の側——に引き込まれてしまうのではないか、という恐怖を引き起こします。

ですが、ヨーロッパにおけるファンタジーの妖精を想像してみてください。
「ピーター・パン」に登場する「ティンカー・ベル」がわかりやすいでしょうか。
その存在に強い恐怖や「死」の危険を感じることはありません。むしろ親しみを感じるほどです。

実はここにケルト文化における「死生観」を紐解く鍵があるのです。

前置きが長くなりましたが、次回より「常若の国のオシーン」のあらすじをお話しいたします。

冒頭で述べた通り、「常若(とこわか)の国」とは「妖精の国」。
精霊たちの国であるのならば、そこは「死後の世界」のように思えますが、実はそう単純なものではないのです。

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