居住空間 in 終活

今回は「終活」における「居住空間」について考えてみたいと思います。

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衣食住

さて、生活の基本を「衣食住」というふう称することもありますが、たしかにそのどれもが基本だけあり、「死」にも深く関わっています。

「衣類」でいえば、「死装束」の文化はさまざまな時代、宗教背景において見られますし、また、一部地域では死刑囚の最期の食事を希望のものにする制度が設けられていたと聞きます。

当然「住」、つまり「居住空間」もまた「死」に深い関わり合いがありますが、現代においての「死の場所」のほとんどは病院であり、その前段階においても「終活」における「居住空間」は多くの不自由、問題を抱えています。

「住」の問題

わかりやすい例では、昨年掲載した記事「終の住処」に詳しいですが、歳を重ね、介護ないし生活のサポートを受けたいとなった場合、「居住空間」の希望が叶わないことが多く見られるということ。
言い換えれば、この国では介護やサポートと引き換えに「居住空間」を犠牲にしなければならない状況があるということです。

もちろん、「衣」や「食」もまた、ずっと思いのままにいくわけではありません。
ですが、「居住空間」が変わるということは大変に体力の要することで、いくら引き換えの対象が介護やサポートであるとはいえ、「転居」以外の選択肢がもっとあっても良いのではないでしょうか。

「家」という場所

筆者があらためて「家」、「居住空間」について思考をめぐらせたのにはいくつか理由があります。

たとえば最近、海外の特徴的な建築に住むひとびとを追ったドキュメンタリー番組を見ていてのこと。
番組では、金銭的な問題、時間的な問題から、リタイア後に「終の住処」を構える夫婦がめずらしくありませんでした。

夫は労働に励み、老後の夢として「終の住処」を描き、それまで家は仮初めの居処だったのかもしれません。やがて子供も巣立ち、長く家に居るようになった時、念願の「終の住処」を手に入れます。
こうしたストーリーは少し前まで平凡なものだったかもしれません。ゆえに、少し前までの典型的な夫婦像においてはハッピーエンドとして描かれます。
ところが、ここで専業主婦である妻の立場になって考えると、一日の大半をそこで過ごし、家事に追われながら子育てをし、毎日そこで見送り出迎えてきた場所を出て、夫の理想の「終の住処」に居住空間を移す。
場合によっては、たいへん不満でしょう。それでも我慢してそこに移り住み、当の夫が早々に介護を必要とし、元気な頃に思い描いていた「終の住処」はやや人里離れており大変不便、などということになってはなかなかの悲劇です。

自分のための家

「居住空間」について思考をめぐらせたもうひとつの理由。
それは最近、筆者が愛読していた漫画作品『プリンセスメゾン』の最終巻が刊行されたことにもあります。

池辺葵による『プリンセスメゾン』は2016年にNHKでドラマ化されており、それによって知っている方もいるかもしれません。

作品概要としては、主人公の沼越幸(通称、沼ちゃん)の物語を軸に、様々な背景を持つ様々な世代の女性の「自分のための家」がエピソード形式で挟まれた作品です。
沼ちゃんは東京の狭いアパートで一人暮らしをし、居酒屋で正社員をしている20代の女性。年収は200万と少し。それでも家を買おうと考え、実際に休日には家の内見をはしごします。
途中までは、そんな沼ちゃんはほんとうに「自分のための家」に出会えるのだろうか。それが物語を引っ張っているものでした。たしかにそこは、ある種のわかりやすいゴールです。
ですが、この作品はそんなところでは終わりません。つまり、沼ちゃんは家を買い、そこで暮らし始めます。そしてそこからの暮らしもたっぷりと描かれるのです。

考えてみれば、家を買うところにゴールを設けるという発想は男性的だったのかもしれないと筆者は感じました。

まさに先日掲載した記事「マンガに見る男女の死生観の異なり」において述べたことですが、「実際」はそんなところで人生は終わらないのです。

沼ちゃんの物語は終わりを迎えました。それはとても素晴らしく、力強い、そしてなによりその後に続く生活を感じさせるものでした。
その屋台骨に「家」がある。『プリンセスメゾン』はそういった作品だったのです。

これからの「住」

「衣食住」。その中でも、今後の「終活」において、もっともよく考えなければならないのは「住」でしょう。
なにより、「衣」や「食」ほど自由ではないし、手軽でもない。そのわりに、体の不自由によって諦めざるを得ない現実に直面させられる。

もしかすると、いままでの「住」の考え方では、立ちいかないのかもしれません。

「終活マガジン」では、「終活」における「居住空間」のあり方について引き続き考えていきたいと思います。