カウボーイと色即是空 – 後編

シリーズ「異文化から学ぶ「終活」」。今回のテーマは「カウボーイ」。
前回より引き続き、映画『ラッキー』における死生観を軸に進めていきたいと思います。

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ゼン・カウボーイ

主演のハリー・ディーン・スタントンは「ゼン・カウボーイ」と形容され、仏教「的」な価値観を支持する人物として知られていました。
そんなハリー・ディーン・スタントンをそのまま投影した主人公ラッキーも当然、そうした価値観を持っています。

ウンガッツ

さきほど——仏教「的」——と記述しましたが、たとえばラッキーは神を信じません。
そして死後について「ウンガッツ=ナッシング=空」という考えを持ち、日常の中でその想いを強めていきます。

ところで、劇中にラッキーが口にする「ウンガッツ」という言葉。
調べてみたところ、どうやらイタリア系アメリカ人が使う「ナッシング nothing」を意味する言葉のようなのですが、なぜラッキーが、あるいはハリー・ディーン・スタントンがこの言葉を使うのかは判然としません。

これは筆者の勝手な解釈なのですが、「たしかにナッシングであり空でもあるが、それではない」というニュアンスがその言葉の使用には込められているのではないでしょうか。
つまり、仏教的価値観を持ちながら、無神論者であり、死後にあるのは「ウンガッツ」。
これはラッキー/ハリー・ディーン・スタントン自身が90年間かけて育んだ死生観であり、彼による彼のための死生観なのでしょう。

最近ではあまり使われませんが、日本語の「無頼」。
文字そのままに「頼りにするものが無い」、そんな生き方——もしかすれば、それが「カウボーイ」的な生き方なのかもしれませんが——、そうした人物が現代において「死生観」を得るということは、自分による自分のための、オリジナルな死生観を作り上げるということなのかもしれません。

ハリー・ディーン・スタントン

名俳優ハリー・ディーン・スタントンは2017年9月15日に亡くなりました。
享年91歳。
『ラッキー』が最後の出演作となりました。

『ラッキー』には死生観に関して、言及したいシーンが豊富にあります。
ラッキーの友人が愛していたペットであるリクガメのルーズベルトのこと。その友人が「終活」のための相談をしていた弁護士をラッキーが邪険に扱い、喧嘩までふっかけるところ。映画の終盤にて「第四の壁を破る」という、古典的手法を堂々と行うラッキー/ハリー・ディーン・スタントンの眼差し。
そして「孤独と一人は同じじゃない」とはっきりと口にするラッキー/ハリー・ディーン・スタントン。

劇的なことが起こるわけではない静かな映画です。
しかし、そこに含まれた豊かな死生観——それはもちろん、ハリー・ディーン・スタントンの人生が反映されているからですが——それをぜひ、みなさん自身の目で確かめてみてください。