『リチャード三世』と死生観 

〜殺しの代償は不眠症②

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シェイクスピアが生み出した最も残酷な男ーーこれがリチャード三世に長く強くつきまとっていたイメージです。
その残酷さは、祈りを捧げている無抵抗な敵の王を無残に刺し殺したという点もさることながら、彼が主人公として大いに活躍する戯曲『リチャード三世』『ヘンリー六世』三部作の続編という時系列になっています)において、王位を手に入れるために身内を手に掛けたその数がダントツで多いからです。
『リチャード三世』の物語がスタートした時点で王位についていたのは、リチャードの一番上の兄エドワード四世です。2度王冠を頭に載せたこの王は長身痩躯、金髪が光り輝く一族一の美貌を誇るまさに「超イケメン」。ですがそれ故か女癖が良くなく、ヨーク家を支え続けた影の功労者リチャード・ネヴィル・通称キング・メーカーがやっとの思いで取り付けたフランス王女との政略結婚を反故にして、敵方ランカスター家の臣下の未亡人エリザベスを見初めて勝手に結婚してしまうという困った男(この不和がきっかけでキング・メーカーは敵方に寝返ることに。この初期歴史劇シリーズは敵味方のいり乱れが凄まじいく、スピード感溢れるストーリー展開が魅力のひとつです)。
エドワードには息子が2人と娘が1人おり、王位継承順位は息子達が優先されます。さらに問題なのは、リチャード三世にはエドワードの他に、クラレンス公ジョージという二番目の兄もいるということ(実はこの兄弟順は、あえて史実と異なる設定となっています。詳細はこの記事を)。しかも、クラレンスにも男児・女児がおり、女児がフランス国王と結婚すれば間違いなく王位は回ってきません。つまり、最低でも先に挙げた7人の兄弟甥姪に万が一の事態が生じなければ自分が王位につくことは叶わないのです。
王位簒奪の見通しをつけたリチャードの手並みは、手本としたマキャベリも驚くほど見事なものでした。病弱な状態のエドワード四世に讒言し、心身ともに健康な次兄クラレンスをロンドン塔(多くのイングランド王家の人々が処刑された場所として有名)へ幽閉させることに成功し、その後秘密裡に殺し屋を雇って殺害します。事実を知ったエドワードは絶望して死に絶え、二人の子供(うち長子はエドワード五世として束の間の玉座に)はリチャードが周到に根回しをしてやはりロンドン塔へ。ロンドン塔へ向かったものの末路は…。
甥殺しの前後には、兄エドワード四世王妃の親類一派や、ことば巧みに引き込んだ臣下、挙句最後は妻(相手はなんと、自分が殺したヘンリー六世の息子エドワードの妻アン!因みにこのエドワードもリチャードに殺されており、アンは義父・夫を殺した男の妻になってしまうというとんでもない状況。彼女へのプロポーズの場面もこの作品のハイライトのひとつ)まで手にかけるという暴虐非道ぶり。因みにクラレンスの娘は、はるかに身分違いの男に無理矢理嫁がせることで王位継承権から除外し、長兄エドワードの娘は劇後半で王位に箔付けするための道具として翻弄されることになります。
シェイクスピアの戯曲の中でも、殺人頻度がダントツで高いこの作品。そもそも、なぜリチャード三世はこんなに人殺しをしなければいけなかったのでしょうか?