『マクベス』と死生観 

〜神の祝福を殺した男②

マクベスは元々スコットランド王ダンカンの親族でしたが、それ以上でも以下でもない一介の軍人に過ぎませんでした。ある戦からの凱旋の折、マクベスは仲間のバンクォーとともに三人の魔女に出会い、万歳三唱とともにそれぞれの過去・現在・未来を言い当てます。曰く、マクベスは「グラームズの領主」「コーダーの領主」「やがて王となる方」バンクォーは「マクベスより小粒だが、もっと偉大な方」「マクベスより幸せでないが、もっと幸せな方」「王を生みはするが、ご自身は王にならぬ方」
マクベスは過去父親が死んだことで領地グラームズを引き継いでいました。依って現在の肩書きとして符号しています。ですがコーダーの領主は生きているためこの予言は矛盾します。首を傾げていると味方の軍勢がやってきて、現コーダーの領主が敵方に通じていたかどで処刑されるため、武勲をあげたマクベスにコーダーの領主の称号を授けると報告します。
この知らせを聞いたマクベスは驚くと同時に「最大のものがそのあとに控えている」と抜け目がありません。ついでに、バンクォーの予言にも目を光らせます。「王を生みはするが、ご自身は王にならぬ方」つまりマクベスがこの後スコットランド王になるのなら、その後釜に座るのはバンクォーの子どもと言うことになるからです(そしてやはりというかなんというか、バンクォーもマクベスの放った刺客の手によって殺されます)。
この時点で、マクベスは確信しています。王位を手にするには、現国王を自らの手で殺すしかないと。
そう、マクベスはいくら王の親族であるとはいえ、所詮それだけの身の上です。王位継承権に近い人間ではありません。しかもこの後の場面でダンカン王から直接グラームズの領主の称号を賜った際、王ははっきりと自分の長男に王位継承権を譲ると名言してしまいます。ひとまず王を亡き者にしなければ王座は近づいてはきません。
かくして、おぞましい王殺しの計画を企てることになるマクベス。当然誰にも明かせぬ秘密であろうかと思いきや、マクベスはただひとりだけに事の次第を告白し、その人と共謀の上ついに王殺しを実行します。
その相手こそ、シェイクスピア全作品の中でもトップクラスの悪女として知られる、妻のマクベス夫人なのです。

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