ドラマ「マスグレーヴ家の儀式書」と死生観 

〜眠れぬ夜はご用心①

※このシリーズは物語の核心部分に触れていることがあります。作品を未読・未見の方はご注意ください。

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サー・アーサー・コナン・ドイル

イギリスのミステリー作家の雌雄を挙げよと言われたならば、10人中10人がこのふたりの名を挙げるでしょう。アガサ・クリスティと、サー・アーサー・コナン・ドイルです。
ドイルが生を受けたのは、クリスティ誕生より30年前のこと。推理小説の枠に留まらず、歴史小説やSF小説まで幅広い分野で腕をふるった医者であり政治家でもあったユニークな作家です。
ドイルが執筆した最も著名な探偵小説は、シャーロックホームズ・シリーズです。世界中で読み継がれている名シリーズで、タイトルロールのホームズは贔屓目なしでも名探偵の冠を持つことを許されている数少ない人物です。長編4編・短編56編が雑誌『ストランド・マガジン』に発表され、看板作品として人気を博しました。
挿絵はヴィクトリア朝のイギリスで活躍したイラストレーターのシドニー・パジェット。ほほの痩けた細身のスタイルにパイプを持つ節くれだった指、メランコリックな表情など、パジェットが描いたホームズはミステリアスな雰囲気を見事に視覚化したとホームズ人気に拍車をかけました。ちなみに非常に特徴的なホームズの持ち物として有名なものがディアストーカー(鹿撃ち帽)とインバネスコートではないかと思いますが、このふたつはパジェットの挿絵に描かれて定着したイメージです。オリジナルでないものが、オリジナルを凌駕してオリジナルの如く定着するという稀な好例です。
ピーター・カッシング、クリストファー・リーなど数多の名優が演じてきたホームズですが、この『マスグレーブ家の儀式書』のドラマヴァージョンでは、「原作を完璧に映像化した」と高く評価されたジェレミー・ブレットがホームズを演じるグラナダ版を下敷きに話を進めていきます。*ディアストーカーもインバネスも持たない原作に忠実な役作りがなされたこのホームズは、ほぼ常に上等な黒の礼服とシルクハット、重く鳴り響く杖を持つ完璧な英国紳士です。

実際にディアストーカーを被っている話もありますが、郊外に出かける時に限られています。これは当時のイギリスでのドレスコードに大きく反するためで、矛盾を避けるための選択でもありました。

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シドニー・パジェットの描いたシャーロック・ホームズ