ドラマ「マスグレーヴ家の儀式書」と死生観 

〜眠れぬ夜はご用心④

※このシリーズは物語の核心部分に触れていることがあります。作品を未読・未見の方はご注意ください。

清々しい朝を迎え、朝食の席につく一同3人。最後に食堂に入ってきたワトスンの身支度の世話をするのはメイドのレイチェルですが、どうも心ここに在らずといった感じです。
ふと、ホームズが昨夜の会話を思い出したかのように「ブラントンはどうしたね?」と尋ねると、ポットのお茶をこぼし、明らかに激しく動揺するレイチェル。慌てて不始末を片付けようとしますがその場に倒れ込んでしまいます。ワトスンが額に手を当てると、驚くほどの高熱が。マスグレーブはひとまず休みなさいと優しくたしなめつつも、ブラントンへの言伝を頼みます。
しかし、その言葉を聞いたレイチェルの様子が一変します。「彼は去りました(Butler is gone)」と震える声で言う彼女は続けざまに「部屋にもどこにもおりません。行ってしまったんですわ」とうわ言のように繰り返し、まるで気が触れてしまったかのように笑い出し、かと思えば泣き出してしまい手がつけられなくなってしまいます。他の執事に両腕を抱えられ、ワトスンに付き添われながらレイチェルは出て行きました。
朝食もそこそこに、ホームズは捜査を開始します。ブラントンの私室を調べますが、眠った形跡がなく貴重品もそのまま。たった一晩でまさに蒸発してしまったブラントン。一方のワトソンも、レイチェルの興奮状態が治らず、鎮静剤を与え看護婦をつけたとくたびれた様子で戻ってきます。不明な点はままあれど、ひとまず週末を楽しもうとマスグレーブは二人の客人を鳥撃ちに誘います(マスグレーブとワトスンが先にブラントンの部屋を出ますが、それまで眠気を堪えていたホームズはふたりがいなくなったのを見計らってベッドに潜り込み寝てしまいます!一見蛇足のように見えるこの場面、後述しますが、実はとても重要なポイントになっています)。
鳥撃ちを一通り楽しんだワトスンとマスグレーブ。そしてマスグレーブはホームズの元に戻るやいなや、昨晩の夜半に起きた奇妙なことについて話始めます。
昨晩遅く、ほんの気まぐれでブラックコーヒーを飲んでしまい眠れなくなってしまったマスグレーブは、読みかけの本を取りに書斎に足を運びます。すると、誰もいないはずの部屋から灯が漏れており、人がいる気配が。壁にかかった斧を手に中の様子を伺うと、なんとそこにはブラントンの姿がありました。彼は暖炉の前の椅子で考え事をしていましたが、やおら立ち上がり机の引き出しから1枚の厚い紙切れを取り出し、手元の安っぽい紙と内容を照らし合わせています。それから机の前の椅子に腰を掛け、ふんぞり返り、再び思案しています。まるで自分こそが主人のようであるかのような傲慢な振る舞い!
およそ執事らしからぬ不遜な態度に、流石にマスグレーブの積年の怒りが爆発したか「これが信頼に対する返礼か?覗き見をしおって、明日出て行け」とブラントンを一喝します。ブラントンは意外やそのまま黙って引き下がりましたが、やはり今一度とマスグレーブにしつこく食い下がります。「罷免は恥です(中略)お許しを頂けぬなら、1カ月の猶予をお与えください(中略)せめて2週間に」マスグレーブはそれでも寛大に1週間の猶予を与えましたが、それでは不服だったのかブラントンは悩みながら去って行きました。
一部始終を聞いたホームズは、ブラントンが「失職の危険を冒しても」調べなければならなかった紙切れに注目します。この紙切れこそが、ドラマのタイトルになっているマスグレーブ家の儀式書だったのです。

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執事のリチャード・ブラントン