ドラマ「マスグレーヴ家の儀式書」と死生観 

〜眠れぬ夜はご用心⑦

※このシリーズは物語の核心部分に触れていることがあります。作品を未読・未見の方はご注意ください。

木製の簡易ボートに乗り、一同は蔵に辿り着きます(ボートを漕いでいるのがなんとマスグレーブ。つくづく貴族らしからぬ扱いに泣けます)。「二の二倍」すなわち4歩中に入り込むと、そこはただの石の床があるのみ。隙間もなく、何かを隠しておけるようなものもありません。ワトスンから計算違いを指摘されても「あり得ん」と断言するホームズですが、考える余地はなく座り込んでしまいます。ですが、ここでワトスンから鶴の一声が!「そして下に、を忘れているよ!」(吹替版)さらに、昔から使っている地下室があると心当たりのあるマスグレーブの言葉を聞くや否や、慌てて地下室に移動します。
地下室は手持ちのランタンなしでは何も見えないほど真っ暗で、壁周りにかき集められた薪が不自然です。そして床の中央には重々しい石蓋がありました、取っ手と思しき金具の輪に男物のマフラーが括り付けられて…。
マスグレーブがこのマフラーをブラントンのものだと断定し、3人はすぐさま石蓋を持ち上げます。マフらの両端をそれぞれホームズとワトスンが、持ち上げられた石蓋を内側からマスグレーブが傾けますが、男3人でようやく持ち上げられるほどの重量。何度も力を入れ直し、ようやくひっくり返すことができました。
ランタンを片手に中を覗き込む3人。長い年月密室であったからか、ワトスンとマスグレーブは不快そうに鼻を覆っています。しかしホームズだけはなおも中を照らします。必死に手を伸ばしている、ブラントンの死に顔をーー。
死体が出た以上、警察へ通報しなければなりません。地元警察は何かと細かくマスグレーブから事の次第を聞き出そうとしますが、貴族が何よりも避けたいのがスキャンダル。当たり障りのない説明で警察からの質問攻撃をかわそうとした矢先、駆けつけてブラントンの死体を見てしまったジャネットが泣きながら「レイチェル、あの女よ。あの女が殺して逃げたのよ」と叫びます。女が絡んでいるとなると事情が変わります。警部はすぐさま屋敷の人間から話を聞こうとその場を後にします。何とも頭の痛い事態になってしまったマスグレーブ…。
ワトスンとマスグレーブは、地下室で考え続けているホームズの元に戻ります。スキャンダルのことで頭がいっぱいのマスグレーブでしたが、ホームズの頭の中は儀式書に隠されたものの正体と、ブラントンの最後の真相を突き止めるのでいっぱいだったのです。
ホームズは想像しますーー。

彼は謎を解いてーー
捜し当てた
(石蓋は)重くて1人では
無理だと思った
どうする?
外部の者に手伝わせるか?
駄目だ 信用できん
では誰に?
レイチェルだ
憎しみながらも彼女は
彼を愛している

ブラントンは眠っているレイチェルの元に行きました。驚いたレイチェルに、ブラントンは迫真の演技で彼女を再び口説き落とします。

謝りに来た
私は愚か者だった
(中略)
許してくれ
(中略)
この心には
他の どの女もいない
屋敷にいては君が駄目になる
出て行こう やり直すんだ

自分の悪さを一切謝罪しないにも関わらず、レイチェルの中に残っている恋慕の情を煽る巧みな話術に、ブラントンの頭の回転の速さとプライドの高さが垣間見えます。流石のレイチェルもまずは疑いますが、独特の甘い声で「身も心も愛しているさ、似合いの2人だ。私の頭脳と君の心は使用人に甘んじておれん。外の世界が呼んでいる」と囁くブラントンに、瞬く間に恋する乙女の目つきに変わってしまいます(きっと、かつてはこうやって口説かれたのでしょう)。
話に現実味を覚えたレイチェルは「お金はどうするの?」と尋ねますが、ブラントンは儀式書に記された宝の存在を仄めかし、一緒に屋敷を出て結婚しようと畳み掛けます。
そのまま手を引かれて寝室を出たレイチェルは地下室に連れてこられます。ブラントンは流石に足元に宝が眠っていると思い興奮したのか、乱暴な口ぶりでレイチェルに指示を出します。自分が蓋を持ち上げ、ある程度の隙間ができたところでレイチェルが薪を挟み込んでいきます。最後はホームズの推理通り、斜めに持ち上がった石蓋を支えるため、1本の薪をつっかえ棒に利用したのが断面の摩耗具合で判明しました。
ランタンをレイチェルに持たせ中へと降りたブラントンの目の前には、チャールズ一世より伝わりし由緒ある秘宝が眠っている、筈でしたーー。

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地下で絶命していたブラントンを発見したホームズとワトスン(シドニー・パジェットの挿絵より)
挿絵ではうずくまるブラントンが、ドラマでは出口に向かって腕を伸ばす姿に変えられました。彼の生への執念と、王族の宝に手を出そうとしたものの恐ろしい末路のようです。