シリーズ「死と乙女」と死生観 

〜死してなお女は美しく①

メメント・モリーーラテン語で「死を想え」の警句は、もともと現代に伝わっているのとは全く違う意味で用いられていました。
古代ローマの頃より使われていたこの言葉は、当初「人生は短い、だからこそとにかく楽しむべきだ」という極めて楽観主義的な意味合いが強かったようです。
キリスト教の流入により、価値観自体が転換を余儀なくされていく中で「”死”はすぐそこに佇んでいる」「人は”死”からは逃れられないさだめである」という刹那的な意味合いの強い言葉へと変容していきました。
老人が天命を全うするならば死を尊ぶ気持ちも生まれようものの、大抵この場合は、理不尽に命を刈り取られる人々へ向けられているものです。そう、大抵は若く、美しく、富にも恵まれた人々へのーー。
特に乙女は死に魅入られやすい。紛れもない悲劇だが、だからこそ美しい芸術が生まれるのも事実。なんと残酷なことか。
女と死の親和性の高さを最もよく表しているのが、西洋絵画の中でもよく知られている「死と乙女」というテーマです。ヨーロッパは疫病などが陸続きに流行した歴史により、人々が死を常に身近に感じる環境にありました。このテーマを描いた名画は数多く、時が経つと音楽にも同様のテーマを採り上げた名曲が生まれるようになります。
溌剌とした美しい乙女と、腐った肉片が腐敗臭を漂わせる忌まわしい存在の死神。妖しい繋がりで結び付けられた一見両極端な存在のこの両者は、かすかに官能をすら匂わせるほどの雰囲気を纏い出します。乙女と死の婚礼。乙女は処女であるはずなのに、官能を先取りしたような恐ろしく甘い蜜のような…。
では、恐ろしくも美しい「死と乙女」の世界へ参りましょうーー。

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