死神の姿と死生観

〜死は気まぐれにやってくる①

死神はどんな姿をしているのか。おそらくほとんどの人が、骸骨が大鎌を持ち不気味に佇む姿を想像するのではないのでしょうか?
ですがもちろん、もともとこのような出で立ちだった訳ではありませんし、そもそも死神の姿は人々のイメージの集積体です。現在の死神のイメージはどこから生まれたのか、原点を探るべきは神話の世界です。
死神の原型は、ローマ神話において農耕を司るサトゥルヌス。ギリシア神話のクロノスに相当し、西洋絵画では年老いた男の姿で描かれます。両者とも骸骨で表されることはなく、また死神が老人の姿をとっている絵もほとんど見受けられませんので、死神と骸骨の結びつきはおそらく中世の頃だったのではないかと推測されます。中世は病が猛威をふるった時代、ヨーロッパ各国が老若男女の屍に覆われていた凄惨な現実が生み出した、一種のファンタジーとも言えます。
ですが大鎌という重要な小道具は、サトゥルヌスから忠実に継承されています。収穫物を刈り取るための鎌がデフォルメされ、刈る対象物が人間の命になるという役割の変遷は非常にドラマティックです。鎌は農耕神を最もよく象徴する*アトリビュートとして効果的です。
農耕は、人間にとって非常に原始的な営みです。天候と共存することが必須であり、だからこそ時の移り変わりに忠実に従う必要があります。このことから転じて「時の神」という役割も負うようになります。この場合のアトリビュートは「砂時計」です。そして時代が下るに連れて、砂時計は人間の寿命を表すものとして捉えられるようになり、若さや富に奢る人々へ差し出す警告めいた使い方をされるようになっていくのです。

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中央にいるのがサトゥルヌス。老人、足元に横たわる大鎌、砂時計の3条件が揃っており、すぐに彼の正体が知れます。

*西洋絵画において歴史上・神話上の人物を特定する持ち物のこと。愛の女神ヴィーナスのアトリビュートはつがいの鳩と黄金の林檎、洗礼者ヨハネはラクダの皮のマントと葦で作られた杖などというように決められており、当時の鑑賞者(上流階級層)は教養の一環としてこれらを覚えていることが当たり前でした。