死神の姿と死生観

〜死は気まぐれにやってくる④中編

実は「死の島」はひとつだけではなく、複数のヴァージョンが作製されています。パトロンからのオーダーと別件の客注とのタイミングが重なったこと、ベックリン自身がこの作品に抱いていたある種の”予感”など様々な条件が重なったことにより、6年をかけて5つのヴァージョンの「死の島」が描かれました。順番に観ていきましょう。
最初のヴァージョンが、前回記事に掲載したバーゼル版、これを受けてある未亡人から「心から安らげる絵が欲しい」という依頼を元に作られたのがニューヨーク版です。バーゼル版とほぼ同時進行で描かれましたが、サイズは一回り小さくなっています。構図はほとんど変わりませんが柔軟な描き方への変化が顕著です。また、舟の先頭に置かれた柩には飾りが追加されており、全体的に装飾的な仕上がりになっています。

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アルノルト・ベックリン「死の島」第2バージョン・ニューヨーク版
1880年、メトロポリタン美術館(米)

次に描かれたのは3年後のベルリン版です。これまでの2ヴァージョンとはかなり異なっており、背景や川面・島全体がかなり明るい色遣いで処理されています。全体的にも暗いイメージが払拭されており、且つ初めて島の入り口が描かれたことからわかりやすい解釈が可能となりました。それまでの死神がすっくと立っていたのが、柩に向かってかすかに頭を下げているのも大きな違いです。
このベルリン版は元々ヒトラーの手元にあったものでしたが、第二次世界大戦後にベルリン美術館に収められるようになりました。ヒトラーはベックリンとフェルメールの作品を特に気に入っており、ゆくゆくはリンツにナチス美術館を建てて自分のコレクションとして飾るつもりだったようです。「死の島」はその目玉として購入したと言われています。

Arnold_Boecklin_-_Island_of_the_Dead,_Third_Version-min

アルノルト・ベックリン「死の島」第3バージョン・ベルリン版
1883年、ベルリン美術館(旧国立美術館)(独)