死神の姿と死生観

〜死は気まぐれにやってくる⑤後編

※このシリーズは物語の核心部分に触れていることがあります。作品を未読・未見の方はご注意ください。

デスノートの最大にして最も重要な力は、「このノートに名前を書かれた人間は死ぬ」というセンテンスです。名前のみを書けば、対象者はその40秒後に心臓麻痺で死亡、それよりも前なら詳細に死亡する方法を書き込むことも可能です。このノートに関するルールは物語の進行とともにさらに増大・複雑化していき、且つ重要な伏線として機能していきます。
死神がノートに名前を書いて人間の命を刈る行為は非常に現代的です。人の形を成していながらも、グロテスクな外見の死神は、鎌や白いローブ、砂時計と言ったいかにもそれというような道具を一切持たず、その大きな体躯をせせこましく屈めて歪な文字で人間の名前を書きます。名前を書く人間は、意外にもなんとなく選ばれるわけではなく、その寿命。死神の目は特殊なつくりになっていて、見た人間の寿命と名前が見えます。その寿命から今殺した年齢を引いて出た年数がそのまま死神の寿命に加算されるため、しっかり計算をして名前を書かないと死神ですら死ぬことがあるそうです。つまり、死神もほどほどにまめなタイプでないといけないということです。これは「死神は語る」にとてもよく似ています。
そしてこの作品内で、実際に人を殺しているのは、ほとんど同じ人間であるということです。ライトは最初、内なる正義感からか「この世から悪人をすべて殺し、善人だけの世界を作り、僕がその世界の神となる」と宣言しひたすらDEATH NOTEに名前を書き続けますが、次第にそれを止めようとする勢力との駆け引きが過激化していき、自分を邪魔する人間や計画上味方すらもどんどん殺していく大量殺人鬼へと変貌していきます。清々しい若者だったはずのライトの双眸がどんどん濁りを増していき、自分以外の人間を見下すようになっていく様は、死神よりも死神らしいのですからあまりにもおぞましい皮肉です。そして、途中途中で登場する何人かの登場人物もDEATH NOTEを手にし、ライトほどではないにしても人を殺していくのです。死神が実際にノートに人の名前を書いている場面は非常に限られています。
リュークは物語中ほぼずっとライトについて事の成り行きを見守っていましたが、やがて終わりがやってきます。最後の最後に捜査陣の手によって追い詰められたライトが、自分に危害を加える人間を殺せと初めてリュークに命令をしたのです。退屈しのぎにノートに手を伸ばしたライト同様、リュークも死神界の退屈さに嫌気がさしノートをわざと人間界に落としたと話しており、この状況が面白いからライトについていただけ。自分の頭脳と力で切り抜けるならまだ先行きが読めず面白いでしょうが、こんな簡単に命乞いをされたら興ざめです(何より、この手段は使えるものならライト自身がとっくに使っていたもの。最後の最後まで本人が使わなかったという点で、この命令は禁じ手だったのです)。つまらなければ別の所に行くまでですが、それにはノートを自分の手元に戻さなければなりません。所有権は拾った人間にあるので、その人間を殺して自分自身に所有権を戻す必要が生じているのです。そう、退屈だから殺すだけです。
面白ければ乗り、面白くなければ殺す。決して無差別に殺す訳でもなく、個人的感情に左右されて殺すのでもない。イマドキの死神は、恐ろしいほどに究極の日和見主義者であり、合理主義者です。

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夜神月と彼の敵・ライバル・手駒として利用されたキャラクターたち
右から時計回りにメロ、L、ニア、弥海砂(あまねみさ)
『DEATH NOTE』単行本第12巻画像・Amazon商品ページより