映画「ゴッホ〜最期の手紙〜」と死生観

死者を弔う旅路の果てに①

※このシリーズは物語の核心部分に触れていることがあります。作品を未読・未見の方はご注意ください。
また、本シリーズのセリフの引用は、吹き替え版を活字化しています。

2017年、長編アニメーション映画のジャンルに名を残す素晴らしい作品が公開されました。
125人の世界各国のアーティストの手によるゴッホ風の油絵計62450枚をアニメーション化した恐ろしいほど気の遠くなる長編映画「ゴッホ〜最期の手紙」。いまだに謎に包まれているフィンセント・ファン・ゴッホの死の真相を、家族ぐるみで親しくしていた郵便配達人ジョゼフ・ルーランの息子アルマンが、ゴッホの生前の旅路を辿りながら周辺人物からゴッホについて聞き集め、ゴッホの本当の姿を探しあてていくというミステリーの側面をもつ経糸と、一貫しないゴッホのイメージを修正するという葬いの儀式としての側面をもつ緯糸の織りなす壮大なタペスリーのような作品です。
すでにゴッホの死から1年が経った1891年の南仏アルル。月が煌々と照らす深夜のカフェテラスでは不穏な雰囲気が充満しています。殴り合いの喧嘩をしている男ふたりと、それを囃し立てる男たち。喧嘩で勝ち名乗りをあげた若者はアルマン・ルーラン。街の郵便配達人ジョゼフ・ルーランの息子で、普段からとにかく喧嘩っ早い上に大変な酒飲みで街の厄介者でした。この日も軍配が上がるやいなや、レストランで酔いつぶれた客から飲み残しのワインをひったくって失敬する始末です。
喧嘩の原因は、一通の手紙。アルルに滞在中にフィンセント・ファン・ゴッホから弟テオにあてられた手紙で、フィンセントが泊まっていた宿の主人が見つけたものです。ジョゼフ・ルーランは最初これをテオに届けようとしましたが、宛先不明で手元に戻ってきてしまいます。そこで息子のアルマンに託すことにしたのです。
アルマンの仕事は金属加工技師。やったことのない郵便配達という仕事に加え、アルマンには気乗りしない理由があります。この村で起こった耳切り事件がきっかけです。
フィンセントはオランダから来た余所者というだけでなく、ここアルルでゴーギャンとの共同生活をしていましたが間も無く破綻、精神が不安定になり自分の耳を切り落としてしまいました。田舎でのスキャンダルはご法度。村人たちは追放の嘆願書を警察に提出し、フィンセントは村から追い出されました。彼はその後サン=レミの療養所で1年を過ごし回復の兆しを見せ、その様子は主治医からジョゼフの元に手紙で詳細に伝えられていました。だからこそ、ジョゼフは信じられなかったのです。この6週間後に、フィンセントがピストルで自殺をするなんてーー。
ジョゼフは残された家族にフィンセントからの手紙を届けることが何よりの弔いであるいい、「死んだ人の手紙を届ける意味がわからない」と取り合わない姿勢を見せていた息子にこう諭します。

兄弟は仲が良かった。彼は毎日弟に手紙を書いていた。わしが回収していたんだから知っとる。
もしわしなら、受け取りたい。
万が一お前が死んでしまって、生前お前がわしにあてて書いた手紙が残されているとしたら読みたい。
ーーお前、どうだ?読みたくないか?

アルマンは翌朝、仕事を休んで汽車に飛び乗り、単身パリへ向かうのでした。

Douglas Booth in Loving Vincent (2017)-minアルマン・ルーラン(演:ダグラス・ブース)

d5b75bbd-b683-4ff2-830d-5ab2b55dedd3-minジョゼフ・ルーラン(演:クリス・オダウド)