映画「ゴッホ〜最期の手紙〜」と死生観

死者を弔う旅路の果てに④

※このシリーズは物語の核心部分に触れていることがあります。作品を未読・未見の方はご注意ください。

Loving Vincent - The Boatman

貸しボート屋(演:エイダン・ターナー)

貸しボート屋の主人への聞き込みでは思わぬ収穫がありました。「特別な光」を求めてよく川へ来ていたこと、無口で女が苦手そうだったこと、でも意外にもガシェの娘とは仲が良く一緒にボートに乗りに来たことがあったこと…そう、あのピアノを弾いていた女性です。アルマンはふたりの仲の深さを探ろうとしますが、貸しボート屋はこう言って一蹴しました。「絵を描きに来たと言って、男と女がボートを借りた。俺が知る限り、フィンセントは、最初はまともだった。でも彼女(マルグリット)とここに来たあと、不釣り合いな女と恋をしたせいで自殺しちまった」
貸しボート屋はガシェの娘マルグリットと話してみろといい、「看守」のごとき家政婦は午後はいつも教会に行っていると教えてもらいました。
一度宿に戻ってひと息ついたアルマンですが、アドリーヌからワインのサービスと「怒ったフィンセントが先生の家のドアを勢い良く閉めて出ていくところをみんな見たのよ(中略)彼が娘と会うことを先生が禁じたんだって」という新たな証言を得ると途端に勢いづき、正午の鐘の聞くやいなや教会への通り道に走って再度ルイーズに声を掛けます。
ルイーズの口からは、フィンセントへの憎しみと軽蔑の念が次から次へと溢れ出してきます。「神に背く行いを日曜にやった」のをはじめ、仲間と神を侮辱する行いをしていたこと、ガシェの家で王族のように傲慢に振舞っていたこと、立ち居振る舞いが下品だったこと…特に彼女にとって許せなかったのは、フィンセントが神の存在を軽んじていたことでした。
勤勉に教会に向かうルイーズと別れたアルマンは再びガシェ宅に向かいます。居間を覗くと、やはりあの女性がピアノを弾いています。マルグリットです。彼女はアルマンの再訪を予感しており、全く動じることなくこの客人を招き入れます。芸術家としてのフィンセントへの敬慕の念に満ちていたマルグリットの言葉は、ルイーズの証言とは正反対のものでした。
思いの外フィンセントへの個人的な感情を聞き取ったアルマンは、貸しボート屋やアドリーヌから聞いた情報を切り札として出しますが、父が疑われていると思ったマルグリットは警戒心を顕にしすっかり心を閉ざしてしまいました。
これ以上の進展は見込めないと日がかすかに傾くなか宿に戻ったアルマンは、今日の聞き込みで得た情報をアドリーヌにひけらかしますが、彼女は信用しようとしません。ガシェ一家に対しては、アドリーヌもまた驚くほど強い不信感を抱いていたのです。

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マルグリット・ガシェ(演:シアーシャ・ローナン)

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フィンセント・ファン・ゴッホ「ピアノを弾くマルグリット・ガシェ」
1890年、バーゼル美術館(スイス)