映画「ゴッホ〜最期の手紙〜」と死生観

死者を弔う旅路の果てに⑤

※このシリーズは物語の核心部分に触れていることがあります。作品を未読・未見の方はご注意ください。

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フィンセント・ファン・ゴッホ「星月夜」
1889年、ニューヨーク近代美術館(米)

アドリーヌからは、フィンセントの宿での様子をさらに具体的に聞くことになります。
ガシェとフィンセントの外見が驚くほどよく似ていたこと(曰く「髪は赤毛で、同じ悲しげな目をしてた」)、にも関わらず内面は全く違っていたこと、この村や宿でも孤独でいたこと(曰く「ガシェみたいな俗物とは違って、彼は礼儀正しくて、優しかった」)、子供とはよく遊んでいたが人々から避けられていたこと、テオとのやりとりでもめたことーー。
この頃、テオと妻ヨーとの間に子どもが生まれており、経済的にフィンセントを支え続けていたテオとの仲がうまくいかなくなったと言われていました。にも関わらず、アドリーヌはフィンセントから、彼が自殺する前の日に絵の具を頼む手紙を送ってくれと託されています。「変だと思わない?弟とお金の問題があったのに、絵の具を送ってくれって頼んで、翌日に自殺するなんて」と疑問を口にするアドリーヌですが、内心はガシェが関係しているのではないかと睨んでおり、それが根強い不信感になっていました。
アドリーヌは、まだフィンセントから預かった手紙を持っていました。これがタイトルになっている最期の手紙です。
アルマンはためらいながらも結局受け取り、アドリーヌに頼んでフィンセントが使っていたのと同じ部屋を用意してもらいます(宿代はツケ。アドリーヌも慣れたものです)。
ベッドに横になり、アルマンは手紙を読みますーー。

親愛なるテオとヨーへ
この村はとても美しい。南フランスへ行ったおかげで北フランスの良さがよくわかる。
ここなら落ち着いて絵を描ける。だからなんとか、滞在費を取り戻すことができればいいんだが。
ドクター・ガシェは、とても…変わり者だ。僕のことを治療してくれるそうだが、むしろ彼の方が病んでいる。
やはり僕の病は、南に滞在したことが原因だと思う。だが北に戻ってきたので、すべてが良くなるはずだ。
しかし、ここでの日々はまるで、まるで……数週間のようだ。数日が数週間のようなんだ。
いつか日曜にでも君の家族を連れて訪ねてくれたら嬉しい。心からの握手を。
愛をこめて。
フィンセント

アルマンは夢を見ました。
自分の影が不意に動き出し、階段をおりていく足音。ふと自分の身体を見ると、腹から血を流しており、周りは干し草だらけで宿のベッドではありません。苦しいながらも起き上がり、血まみれの手で目の前の扉を開けると、見知らぬ赤毛の男、彼が振り向くとーー。
異様な夢にうなされて飛び起きたアルマンは、宿の外で一服することに。ところがそこに石を投げてくる少年がいます、こんな深夜に。喧嘩っ早いアルマンはすかさず彼を追いかけますが、逃げ込んだはずの納屋で少年が煙のように消え失せてしまうというなんとも不思議な体験をします。
結局その日は眠りにつけないまま。オーヴェールの訪問は、波乱続きの幕開けとなったのです。